SESとは?「やめとけ」と言われる理由を徹底解説

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IT業界で働く人や、これからエンジニアを目指す人の間で「SES」という言葉を耳にする機会が増えています。求人サイトや転職エージェントの案内でもSES案件が目立ちますが、インターネット上では「SESはやめておけ」といった意見も多く見かけます。一方で、SESで経験を積んでキャリアアップしたという声もあり、実際のところはどうなのか気になる方も多いでしょう。この記事では、SESの仕組みや特徴、なぜ「やめとけ」と言われるのか、その理由を具体的に解説していきます。IT業界でのキャリアを考えるうえで、SESという働き方の実態を理解し、自分に合った選択ができるように情報を整理していきます。

目次

SESとは何か

SESの基本的な仕組み

SESは「システムエンジニアリングサービス」の略称で、日本のIT業界では非常に広く使われている契約形態です。SES契約は、企業が自社のエンジニアを他社のプロジェクトに派遣し、技術力や作業時間を提供するサービスです。SES企業は、クライアント企業と契約を結び、自社のエンジニアを一定期間、クライアント先に常駐させて業務を行わせます。派遣契約と似ているように見えますが、SESは「準委任契約」と呼ばれる契約形態が基本となっています。

準委任契約では、作業の成果物そのものではなく、作業を行うこと自体に対して報酬が支払われます。つまり、エンジニアがクライアント先で働いた時間や提供した技術力に応じて、SES企業が報酬を受け取る仕組みです。SESのエンジニアは、クライアント企業のオフィスでプロジェクトメンバーとして働きますが、雇用主はあくまでSES企業であり、給与や福利厚生などもSES企業から支給されます。

SESの業務内容は、システム開発やインフラ構築、運用保守など多岐にわたります。プロジェクトによっては、要件定義や設計など上流工程に携わることもあれば、プログラミングやテスト、運用サポートなど下流工程が中心になる場合もあります。SESの現場は、案件ごとに求められるスキルや役割が異なるため、幅広い経験を積むことができる反面、配属先によって仕事内容に大きな差が生まれやすいという特徴もあります。

SESと他の働き方の違い

SESはIT業界の中でも独特の位置づけを持っています。ここでは、派遣や請負、フリーランスといった他の働き方と比較しながら、SESの特徴を整理します。

派遣や請負との違い

SESと派遣は、どちらもエンジニアが自社以外の現場で働くという点で似ていますが、契約形態や業務内容に違いがあります。派遣契約は「労働者派遣法」に基づいており、派遣先企業がエンジニアの業務指示を直接行います。一方、SESは「準委任契約」に基づくため、業務指示の主体はSES企業となります。実際の現場ではクライアントから直接指示を受けることも多いですが、法律上はSES企業が管理責任を持つ形です。

請負契約は、成果物の納品が契約の目的となります。たとえば、システム開発のプロジェクトで「このアプリケーションを納品する」といった明確な成果物が設定され、納品後に報酬が支払われます。SESの場合は、成果物の有無にかかわらず、作業時間や技術提供に対して報酬が発生します。

フリーランスとの違い

フリーランスエンジニアは、個人事業主として自らクライアントと契約を結びます。案件ごとに報酬や働き方を自分で交渉できる一方、営業や契約管理、税務処理なども自分で行う必要があります。SESの場合は、SES企業がクライアントとの契約や営業活動を担い、エンジニアはSES企業の社員として働くため、安定した給与や福利厚生が得られる反面、案件や現場を自分で自由に選ぶことは難しい傾向があります。

SESが「やめとけ」と言われる理由

SESでよく指摘される課題

SESという働き方にはさまざまな意見がありますが、とくに「やめとけ」と言われる背景には、いくつかの共通した課題が指摘されています。

キャリア形成の難しさ

SESで働くエンジニアの多くが感じるのは、長期的なキャリア設計の難しさです。SESの現場では、プロジェクトごとに求められるスキルや役割が大きく異なります。たとえば、ある現場ではプログラミングが中心でも、別の現場ではテストや運用保守が主な業務になることもあります。配属先によっては、単純作業やマニュアル業務が中心となることもあり、専門性や技術力を高める機会が限られてしまう場合もあります。

また、SESエンジニアはプロジェクト単位で現場が変わるため、特定の技術分野を深く極めるよりも、幅広い業務を経験することが多くなります。その結果、特定分野のスペシャリストとしてのキャリアを築くのが難しいと感じる人も少なくありません。IT業界では、技術の進歩が速く、常に新しいスキルや知識が求められますが、SESの現場では「今いる現場の業務をこなすこと」が優先されやすく、体系的なスキルアップやキャリアパスの設計が後回しになることもあります。

評価や昇給の仕組み

SES企業の多くは、エンジニアの評価や昇給の仕組みが曖昧だったり、現場での成果が正当に評価されにくいという課題を抱えています。SESエンジニアは、クライアント先で働くため、日々の業務における努力や成果がSES企業の上司に直接伝わりにくい構造です。現場で高いパフォーマンスを発揮しても、評価や昇給に結びつきにくいと感じる人が多いのが実情です。

また、SES企業の収益構造は「エンジニアの稼働時間×単価」に依存しているため、エンジニア個人の成長や成果よりも、どれだけ多くの現場に人を送り込めるかが重視されがちです。こうした背景から、昇給やキャリアアップの機会が限られ、モチベーションの維持が難しくなることもあります。

配属先が選べない問題

SESエンジニアの多くは、自分の希望や得意分野にかかわらず、SES企業の都合やクライアントの要望に応じて配属先が決まることが一般的です。たとえば、インフラエンジニアを希望していても、開発現場に配属されたり、逆に開発志望でも運用保守の現場に回されることがあります。自分のキャリアプランやスキルアップの方向性と異なる現場に長期間配属されると、モチベーションの低下やキャリアの停滞につながりやすいです。

SES業界の構造的な問題

SESが「やめとけ」と言われる背景には、業界特有の構造的な問題も大きく影響しています。

多重下請け構造とは

日本のIT業界では、SESを含む多重下請け構造が根強く残っています。大手の元請け企業がプロジェクトを受注し、そこから複数の中間業者を経由して、最終的にSES企業がエンジニアを現場に送り込むという流れが一般的です。下請けの階層が深くなるほど、エンジニアが受け取る報酬は目減りしやすくなります。

多重下請け構造では、元請け企業がプロジェクト全体の管理や利益を握り、中間業者やSES企業はマージンを差し引いた金額でエンジニアを現場に送り込むことになります。そのため、同じ案件でもエンジニアの手取り額が大きく異なるケースがあります。SES企業によっては、自社の利益を優先し、エンジニアの待遇やキャリア支援が後回しになることも指摘されています。

マージンや給与水準の実態

SES業界では、エンジニアの給与水準やマージン率が問題視されることが多いです。SES企業は、クライアントから受け取る契約金額の中から、エンジニアの給与や社会保険料、会社の利益などを差し引きます。マージン率は企業によって異なりますが、20〜40%程度が一般的とされています。

下の表は、SES契約におけるマージン率とエンジニアの給与水準の一例です。

SES契約単価マージン率エンジニア手取り(月額)
60万円30%約42万円
70万円35%約45.5万円
80万円40%約48万円

このように、契約単価が高くてもマージン率が高い場合、エンジニアの手取りは思ったほど増えません。マージン率が不透明な企業も多く、エンジニアが自分の労働価値に見合った報酬を得られていないと感じることもあります。

契約期間や安定性の課題

SES契約は基本的にプロジェクトごとの期間契約となるため、案件が終了すると次の現場が決まるまで待機期間が発生することがあります。待機期間中の給与支給が保証されている企業もあれば、無給や減給となる場合もあります。プロジェクトが急に打ち切られることもあり、雇用の安定性に不安を感じる人も少なくありません。

また、SES企業によっては、案件が途切れた際に自宅待機や研修扱いとなり、実質的に給与が減額されるケースも見受けられます。安定した働き方を求める人にとっては、こうした不安定さが「やめとけ」と言われる理由のひとつとなっています。

SESで働く人の悩み

SESで働くエンジニアが抱えやすい悩みについて、具体的に見ていきます。

モチベーションの維持

SESエンジニアは、クライアント先での業務が中心となるため、自社とのつながりが希薄になりがちです。プロジェクトごとに現場が変わり、チームメンバーも頻繁に入れ替わるため、仕事に対する一体感や達成感を得にくいと感じることがあります。自分がどれだけ現場で貢献しても、評価や昇給に結びつきにくい構造も、モチベーション低下の要因となります。

また、クライアント先での立場が「外部の人」として扱われることも多く、プロジェクトの中核メンバーになりにくい傾向があります。現場によっては、重要な意思決定や設計に関わる機会が限られ、サポート的な役割にとどまることもあります。こうした状況が続くと、やりがいや成長実感を持ちにくくなり、転職を考えるきっかけになることもあります。

スキルアップの壁

SESの現場では、プロジェクトごとに求められるスキルが異なります。たとえば、ある現場では最新のクラウド技術やAI開発に携われる一方、別の現場ではレガシーシステムの保守や単純なテスト作業が中心になることもあります。自分の希望や得意分野に合った案件に配属されるとは限らず、スキルアップの機会が限られるケースも少なくありません。

また、SES企業によっては、教育や研修制度が十分に整っていない場合もあります。現場でのOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が中心となり、体系的なスキルアップや資格取得の支援が受けられないことも多いです。IT業界では新しい技術やツールが次々に登場するため、常に自己学習や情報収集が求められますが、SESの働き方では「現場で必要なことだけをこなす」状況に陥りやすいのが現実です。

社内とのつながりの薄さ

SESエンジニアは、クライアント先での業務が中心となるため、自社の同僚や上司と顔を合わせる機会が少なくなります。社内イベントや勉強会、評価面談などもオンラインや書面で済まされることが多く、帰属意識やチームワークを感じにくいという声が目立ちます。

また、現場での悩みや課題を自社に相談しにくい雰囲気がある場合、孤立感を覚えることもあります。現場でのトラブルや人間関係の問題が発生した際に、誰に相談すればよいかわからず、ストレスを抱え込んでしまうケースも少なくありません。こうした社内とのつながりの薄さが、長期的なキャリア形成や働きがいに影響を与えることもあります。

SESのメリットとデメリット

SESで得られる経験

SESの働き方には課題も多いですが、一方で他の働き方にはないメリットも存在します。まず、SESエンジニアは多様な現場やプロジェクトで働く機会が多いため、幅広い経験を積むことができます。たとえば、大手企業のシステム開発プロジェクトや、スタートアップの新規サービス立ち上げ、自治体のインフラ運用など、案件ごとに異なる環境や業務内容に触れられるのが特徴です。

こうした経験を通じて、さまざまな開発手法やツール、業界ごとの業務知識を身につけることができます。複数の現場を経験することで、柔軟な対応力やコミュニケーションスキルが養われる点も、SESならではの強みです。

SESのメリット

幅広い現場経験

SESエンジニアは、プロジェクトごとに異なる現場で働くため、短期間で多様な業界やシステムに触れることができます。たとえば、金融業界の基幹システムや、流通業界のECサイト、官公庁のインフラ構築など、案件の幅が広いのが特徴です。現場ごとに異なる開発手法やツール、チーム体制を経験できるため、柔軟な対応力や新しい技術への適応力が身につきます。

また、クライアント先の現場では、さまざまなバックグラウンドを持つエンジニアやプロジェクトマネージャーと協働する機会が多く、コミュニケーション能力や調整力が自然と鍛えられます。こうした経験は、将来的にリーダーやマネージャーを目指すうえでも役立つスキルとなります。

未経験からの挑戦がしやすい

SES企業の多くは、未経験者や異業種からの転職者を積極的に採用しています。IT業界未経験でも、基礎的な研修やOJTを通じて現場デビューできる環境が整っている企業もあります。プログラミングやインフラの基礎から学び、実際のプロジェクトで経験を積むことで、ITエンジニアとしてのキャリアをスタートさせやすいのがSESの特徴です。

また、SES企業は案件数が多いため、さまざまな現場で自分に合った業務を見つけるチャンスも広がります。未経験からIT業界に挑戦したい人や、まずは幅広い経験を積みたい人にとって、SESは入り口として選ばれることが多いです。

SESのデメリット

長期的なキャリア設計の難しさ

SESで働く最大のデメリットは、長期的なキャリア設計が難しい点です。プロジェクトごとに現場や業務内容が変わるため、特定分野の専門性を深めにくい傾向があります。たとえば、開発エンジニアを目指していたのに、運用保守やテスト中心の現場が続くと、思い描いたキャリアから外れてしまうこともあります。

また、SES企業によっては、キャリアパスやスキルアップの支援が十分でない場合もあります。現場で必要な業務をこなすことが優先され、体系的な研修や資格取得のサポートが受けられないケースも少なくありません。こうした環境では、自分のキャリアを主体的に考え、積極的にスキルアップに取り組む姿勢が求められます。

労働環境や待遇のバラつき

SES業界は企業ごとに労働環境や待遇に大きな差があります。たとえば、同じ案件でも、所属するSES企業によって給与や福利厚生、教育制度が異なります。マージン率が高い企業では、エンジニアの手取りが低くなりがちです。また、待機期間中の給与支給や有給休暇の取得、残業代の支払いなど、基本的な労働条件も企業によってバラつきがあります。

現場ごとに就業規則や働き方が異なるため、SESエンジニアは柔軟な適応力が求められます。労働環境や待遇に不満を感じた場合は、早めに転職やキャリアチェンジを検討することも重要です。

SESを選ぶ前に考えたいポイント

自分に合う働き方かどうか

SESの働き方が自分に合っているかどうかを見極めることが大切です。たとえば、幅広い現場経験を積みたい人や、さまざまな業界やプロジェクトに興味がある人には向いています。一方で、特定分野の専門性を高めたい人や、安定した職場環境を重視する人には不向きな面もあります。

自分のキャリアプランや価値観、働き方の希望を明確にしたうえで、SESという選択肢が本当に自分に合っているかをじっくり考えることが重要です。

企業選びで重視したい点

SES企業を選ぶ際には、いくつかのポイントを重視する必要があります。

直請け案件の有無

SES企業の中には、元請けや一次請けとして直接クライアントと契約している企業もあれば、二次請け・三次請けとして中間業者を経由している企業もあります。直請け案件が多い企業は、マージン率が低く、エンジニアの手取りや待遇が良い傾向があります。また、プロジェクトの中核メンバーとして参画できる機会も増え、スキルアップやキャリア形成に有利です。

企業選びの際は、直請け案件の割合や、どのようなクライアントと取引があるかを確認することが大切です。企業の公式サイトや求人情報、口コミサイトなどを活用して、情報収集を行いましょう。

教育やサポート体制

SES企業によっては、教育や研修制度が充実しているところもあります。たとえば、社内勉強会や資格取得支援、外部セミナーへの参加補助など、エンジニアのスキルアップを積極的に支援している企業も存在します。キャリア面談やメンター制度など、現場での悩みや課題を相談できるサポート体制が整っているかも重要なポイントです。

教育やサポート体制がしっかりしている企業を選ぶことで、長期的なキャリア形成やモチベーション維持につながります。

転職やキャリアアップの選択肢

SESで経験を積んだ後のキャリアパスについても考えておく必要があります。

他のIT業界職種との比較

SES以外にも、IT業界にはさまざまな働き方や職種があります。たとえば、自社開発企業や受託開発企業、インフラ専門企業など、それぞれに特徴やメリット・デメリットがあります。自社開発企業では、長期的なプロダクト開発に携われるため、専門性を高めやすい傾向があります。受託開発企業では、複数のクライアント案件を経験できる一方、納期や品質へのプレッシャーが強い場合もあります。

自分のキャリアプランや希望する働き方に合わせて、SES以外の選択肢も視野に入れることが大切です。

SESからのキャリアチェンジ

SESで得た経験やスキルを活かして、他の職種や働き方にキャリアチェンジする道もあります。たとえば、SESで幅広い現場経験を積んだ後、自社開発企業やITコンサルタント、プロジェクトマネージャーなどに転職する人もいます。SESで培ったコミュニケーション力や柔軟な対応力は、どの職種でも役立つスキルです。

キャリアチェンジを目指す場合は、現場での経験を積極的にアピールし、自己学習や資格取得にも取り組むことが重要です。転職エージェントやキャリアコンサルタントのサポートを活用するのも効果的です。

まとめ

SESは日本のIT業界で広く採用されている働き方ですが、メリットとデメリットがはっきりしています。幅広い現場経験や未経験からの挑戦がしやすい一方で、キャリア設計や待遇面で課題も多いです。自分のキャリアプランや希望する働き方に合わせて、SESが本当に自分に合っているかを慎重に見極めることが大切です。企業選びやキャリアアップの選択肢も意識しながら、納得できる働き方を選びましょう。

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